2021年1月16日

「100万回生きたねこ」の残り99万9994回の生き方に関する考察

『100万回生きたねこ』は壮大なSF超大作である。

今、絵本を読んだことがある人なら思わず二度見しそうな発言をしてしまったが、あらかじめ伝えておくと俺の頭は正常です。

100万年も しなない ねこが いました

『100万回生きたねこ』 P1より引用

だって、しょっぱないきなりこんな壮大な語り他にある?100万年前といえば、まだ北京原人とかジャワ原人がウホウホ言ってる時代よ。100万年。秒数換算なら31,536,000,000,000秒。数字がインフレ起こしてフリーザの戦闘力を初めて見たとき並の衝撃を受けるけど、そのあいだ死ななかった、という猫のお話。

ここで一度、先に引用した文章を音読してみてほしい。

そう、じつはこれ100万年も「しなない」と書いているだけで100万年で「死んだ」とは書いていないのだ。

猫の平均寿命はおよそ2~16年といわれていて、100万年で100万回だとしたら、1回につき1年しか生きていないことになる。しかし絵本を見返してみるとこの〈ねこ〉はどう見ても成猫で、人間でいうところの一般成人男性、猫年齢でだいたい2歳くらいだ。

猫の人生(以下「猫生」とする)1回につき約2歳生きたとしたら、こんな数式が成り立つだろう。

200万年。増えてますやん。200万年前といったら、我々人類はもはや原人ですらなく絶賛猿人。やっと直立二足歩行できるようになったくらいの時分である。

それで、なるほど人類がまだ猿人だった頃から今までずっと生きてきた猫なのね、と思ったらそうでもない。

100万人の 人が、そのねこを かわいがり、 100万人の人が、 そのねこが しんだとき なきました。

『100万回生きたねこ』 P1より引用

どうやら、この100万回というのは猫という種族が人間と関わりだしてからスタートするらしい。絵本ではそのうちのごくごく一部が切り取られているのだが、ざっくりとおさらいすると、作中で取りあげられる猫生は以下7回。

このうち、⑦だけはちょっと異質だ。

あるとき、ねこは だれの ねこでも ありませんでした。

『100万回生きたねこ』 P1より引用

おれは、 100万回も しんだんだぜ!

『100万回生きたねこ』 P20より引用

情報を組み合わせるとこうなる。

  1. ⑦の猫生では野良猫(誰にも飼われていない)だった。
  2. しかし、〈ねこ〉は合計100万人の人間に飼われていた。
  3. 〈ねこ〉は「100万回も死んだ」と発言している。

つまり、⑦の野良猫だった猫生は100万回のうちにカウントされていないのではないだろうか。だとすれば彼の野良猫としての猫生とは正確には100万1回目だ。『100万回生きたねこ』という題名にも関わらず、100万1回目の猫生とは……。

しょっぱい気持ちでふたたび絵本を読み返してようやく、あることに気づく。

①~⑥には描かれていて⑦に描かれていないもの。人間だ。⑦の猫生には、人間の姿がまったく見えない。

野良猫だから当然だと思うかもしれない。が、17ページ、〈ねこ〉が野良猫として最初に登場するのは夜の街中である。街中にも関わらず人の気配がしないというのは妙ではないか。同じく27ページにも郊外の草原の背景に民家があるが、日中にも関わらず、そこにも人の気配はない。

ここまでの事象を踏まえて、このような仮説を立ててみる。

そう、『100万回生きたねこ』とは人類が猫と関わりはじめた時代からその栄枯盛衰を見届け、人類がいなくなった100万1回目の世界で初めて愛を知り、子を育み、悲しみを知り、そして死を迎える一匹の猫の、壮大なSF超大作なのである。

この仮説を検証する上で重要なのが、作中では描かれない残りの猫生、その子細である。最後野良猫になる前の6回分の猫生はわかったが、残り99万9994回の猫生は謎のまま。この空白期間を、本記事はつまびらかにしていこうと思う。

〈ねこ〉が生きた時代 過去~現代まで

この〈ねこ〉がいつ生まれたかを知るためには、まず人類と猫、それぞれの種族の歴史を学ばなければならない。いつから猫は人間に飼われるようになったのか。その疑問に答えてくれるのが、こちらの本。

アビゲイル・タッカーの『猫はこうして地球を征服した: 人の脳からインターネット、生態系まで』は、人類と猫の関係について、古今東西めっちゃ詳しく解説してくれるのよね。まさしく……!『100万回生きたねこ』を考察するための本じゃあないかっ……!って俺の中の康一くんも後ろで応援してくれてる。拳握りしめて。

さらに、『ねこ検定公式ガイドBOOK 初級・中級編 (廣済堂ベストムック 424号)』『ねこ検定公式ガイドBOOK 中級・上級編 (廣済堂ベストムック 371号) 』。ねこ検定の公式ガイドブックである。っていうか、ねこ検定なんてあるの今初めて知った。検定を受ける予定は一切ないけど、歴史から生態まで猫に関する基礎的な知識がまんべんなく載ってそうなので、初級と上級どちらも購入。

以上3冊からインプットした情報を資料にしつつ、猫と人間の関わりは解説していこうと思う。ざっくり年代を区切って、ダイジェストで追っていこう。区切りごとに『100万回生きたねこ』で描かれていたらきっとこんな感じ、というのを例示する。基本的には作品のテキストに則って書くけど、最後のオチは「ねこは じゅみょうで しょうがいを まっとうしました」で統一しよう。事故や飼い主による過失で死んでしまうオチって悲しいし。せめて作中の6回以外は普通に生涯を全うしてほしい、一猫好きとしては。

参考文献によると、一万年から一万二〇〇〇年前の肥沃な三日月地帯のどこかの村で、人とイエネコの関係ははじまったとされている。その例として「ハラン・チェミ」と呼ばれる現在のトルコ近辺のチグリス川支流沿いの村をあげているので、仮にこの場所から〈ねこ〉も生まれたことにしよう。

この頃、彼の猫生の1つはおそらくこのような感じだ。

当時は公共の井戸から瓶に水を入れて家の中に蓄えてたらしい。これはクーラーとしての役割も担っていて、部屋の中も涼しかったとのこと。この頃日本はおそらく縄文時代。メソポタミア文明期の村人にそこまで生活の知恵があったというのは驚きだ。

縄文時代といえば、「縄文人観察キット 【放置・育成】」というアプリをご存知だろうか。

川沿いにあった村から船に乗せられ、猫は生息範囲を拡大していく。地中海キプロス島でも、人間と猫が一緒に埋葬されている遺骨が出土されたらしい。

この頃、彼の猫生の1つはおそらくこのような感じだ。

現在、キプロス島は「猫の楽園」と言われるくらいたくさんの猫がいるらしい。いわゆる猫島。行ってみたいけどそもそも日本の猫島にすらまともに行けてない。まずは母国の猫島で猫好きの経験値を稼いで、世界へ羽ばたけるくらいレベルアップしなければキプロス島に到達するのは難しいだろう。

あ、レベルアップといえば縄文人観察キットのご報告。

船に載せられた猫はさらに生息範囲を広げ、エジプト方面に到達する。古代エジプト人は猫を神として崇拝していたらしい。そのため猫は王家が飼育し、海外への持ち出しは禁止されていた。これまで拡大しつづけてきた生息範囲が、エジプトにきて一旦ストップとなる。

この頃、彼の猫生の1つはおそらくこのような感じだ。

古代エジプト人によって猫の生息範囲は拡大がストップしたが、一方、縄文人観察キットでは順調に文明が進んでいる。

ついに、紀元前が終わりを迎える。古代エジプト人によって長らく生息範囲の拡大が見込めなかったが、フェニキア人によっていよいよ猫たちはイタリア・スペインへとふたたび生息範囲を拡大していく。フェニキア人は地中海で海上貿易をしながら生活していた。アルファベットの元になる文字を生み出したことでも有名である。

この頃、彼の猫生の1つはおそらくこのような感じだ。

フェニキア人は当時の文明や文化をつなげるネットワーク的な役割だったけど、猫を各地に送るネットニャーク的な役割も担っていたようだ。偉い。

猫たちの時代はとっくに縄文時代を通りすぎているのだが、相変わらず、縄文人観察キットはつづけている。フェニキア人は海上貿易だが、縄文人も負けていない。

さて、猫が中央ヨーロッパにまで広がったのはキリスト生誕の時代。この時期ヨーロッパではローマ帝国が栄えていたが、ローマ人は犬派だったらしい。らしいけど、猫たちはローマ軍の進軍とともにちゃっかり生息範囲を拡大していく。一方アジア方面にも生息範囲は拡大していて、とうとう日本でも生息が確認された。

この頃、彼の猫生の1つはおそらくこのような感じだ。

古代ローマには「バール」という軽食屋があって、庶民たちはそこで軽食を楽しんでいたらしい。また、かの有名な円形闘技場・コロッセオでは、剣闘士たちによる試合や罪人を猛獣に襲わせるというえげつない見世物が行われていたらしい。

これは完全に個人的な話になるが、コロッセオの剣闘士と聞いて思い出すのは、日本ファルコムが発売している「イースⅧ」というゲームである。古代ローマには「バール」という軽食屋があって、庶民たちはそこで軽食を楽しんでいたらしい。また、かの有名な円形闘技場・コロッセオでは、剣闘士たちによる試合や罪人を猛獣に襲わせるというえげつない見世物が行われていたらしい。

これは完全に個人的な話になるが、コロッセオの剣闘士と聞いて思い出すのは、日本ファルコムが発売している「イースⅧ」というゲームである。

イースⅧは主人公が船旅の途中で漂流し、無人島に流されてしまい、同じく漂流することとなった乗船客たちと協力して無人島を脱出する、というアクションRPG。この漂流者たちの中にある老婆がいるのだが、彼女はじつはコロッセオで伝説の剣闘士と呼ばれた歴戦のつわものだったのだ。

こういう、じつは強キャラ!みたいな立ち位置は憧れる。ハンターハンターのビスケとかそうだよね。強キャラは読んで字の如く、力が強い。ギリシャ語で力は「ダイナマイト」だってドクターストーンの千空くんが言ってた。

1000年頃はヨーロッパ海域でバイキングが活躍し、アイスランド、スコットランドなど、新たな地域へと猫を運んでいく。中世ヨーロッパといえば魔女狩りが横行し、猫たちも迫害を受けた。ただ教会の修道士などは隠れてペットとして飼っていたり、イスラム圏ではムハンマドが猫を溺愛していたという記録もあり、猫の生息範囲拡大はとどまることを知らない。

この頃、彼の猫生の1つはおそらくこのような感じだ。

ところで、当時のバイキングを知る上で非常に勉強になる動画があった。

Huluで配信されているドキュメンタリー番組「最強武術を体得せよ」の「ヴァイキング」の回。この番組は、アメリカ陸軍特殊部隊の屈強そうな男性が世界中の武術を学んでいく――というもの。当時のヴァイキングたちが用いた武器や戦術など、身体を張って体験していく様には思わず魅入ってしまう。ヴァイキングって野蛮な戦闘集団ってイメージがあったけれど、全然そんなことはない。戦術だけでなく航海術や造船術、武器の製造技術にも長けていて、当時の近隣諸国を震え上がらせた理由がよくわかった。

近隣諸国が震え上がった理由がもう一つ。それはヴァイキングが死を恐れなかったことだ。

戦士の魂は死後「ヴァルハラ」という神の世界の宮殿に集められると信じていたため、彼らにとって死ぬことはむしろ名誉なことだった。死者の埋葬の仕方も「船葬」といって、船に死者を乗せ海に送り出す方法をとっていたとのこと。

一方、縄文人はどうだろう。

今さらだけど、こんなざっくりした歴史の区切り方でよかったんだろうか。激動の500年だったけれど、まぁ論点はあくまで人間と猫の関わりなので、このまま進めよう。

大航海時代になり、船で全世界津々浦々巡るようになると、猫の生息範囲も世界中へとどんどん拡散していく。近代、現代になれば猫と人間の関係は今とほとんど変わらないだろう。様々な国で、様々な職種の人間が猫を飼っている。曰く、現在世界にはおよそ六億匹の猫がいて、すでに一〇億に近づいたと考えている科学者もいるそうだ。

この頃、彼の猫生の1つはおそらくこのような感じだ。

ユーチューバーの猫、といわれてなにを思い浮かべるだろうか。個人的には2000年代はじめ、スコティッシュフィールドの「まる」が一躍有名となり、すさまじい人気を博したのが記憶に新しい。

かわええ。かわええのお。2009年のこの動画は約2500万回再生されている。2500万というのはすさまじい数だが、一気にそこまでの数値になったのではなく、再生数を一つひとつ積み重ねていって今がある。

ざっくりだけど、過去から現在までの〈ねこ〉の生き方を想像してみた。

生きた回数(寿命2歳)年代例示した生き方
1~1000紀元前10000年~紀元前8000年村人のねこ
1001~2500紀元前8000年~紀元前5000年島のお姉さんのねこ
2501~4000紀元前5000年~紀元前2000年ファラオのねこ
4001~5000紀元前2000年前~紀元1年商人のねこ
5001~55001年 ~ 1000年軽食屋のお兄さんのねこ
5501~57501000年~1500年バイキングのねこ
5751~60201500年~現代ユーチューバーのねこ

猫の生息範囲拡大と〈ねこ〉の転生先が一致すると仮定すれば、だいたいこのような生き方が考えられるのではないだろうか。

ここまででだいたい約6000回。これだけ書いてやっと進捗率0.3%。先行きに不安しか感じられない。途中でなぜか縄文人のアプリゲームをやってしまったため、時間もかなりかかってしまっている。それだけじゃない。ここからは未来の話だ。ねこの平均寿命を2年に設定したので、あと1,994,000年後の未来まで考える必要がある。

だがここまできたら完走してやる。

必ず、99万9994回の生き方を解き明かすんだ。

未来を想像する

さて、俺たちの未来にはいったいどんな光景が広がっているのだろう。考えるには知識が乏しすぎる。まずは、情報を仕入れなければならない。

電子版でこんな本を買った。ミチオ・カク『人類、宇宙に住む 実現への3つのステップ』。この本には人類が宇宙へ進出し、惑星に移住するまでのステップが書かれている。まさにド未来。著者は高名な理論物理学者で、未来学者としても定評があるんだって。……いや未来学者ってなに?って思うけど、とりあえず、本に書かれていた情報を元にこれから先の猫生を想像していくことにしよう。

数千、数万単位で地球の未来を考えたとき以下の可能性があるらしい。

1万年以内に起こる可能性があるもの

そもそも、10万年くらい氷河期があったのち、1万年前に雪解けがあって今の文明というのは栄えているらしい。スケールが大きすぎて想像が難しいが、次の氷河期は1万年以内にくる可能性が高いとのこと。

10万年以内に起こる可能性があるもの

アメリカのイエローストーン国立公園には北アメリカ大陸最大の火山地帯がある。この火山が巨大噴火すると、毒の雲が地球全体を包み込んでしまうらしい。そして、噴火の周期的をみるにこの事態は今後10万年以内に起こる可能性がある。ちなみにこれはまだ本のプロローグ部分なんだけど、読んでいる時「ひぇっ」とよくわからない声が出た。

100万年以内に起こる可能性があるもの

6500万年前には小惑星が地球に衝突し恐竜を滅ぼしたが、それと同レベルの衝突がまた起きる可能性がある。6500万年前は地球上の生物の90%が死に絶えた。噴火の話は「ひぇっ」だったが、小惑星衝突は「はひぃっ」だ。読んでる間ずっとこんな奇声上げてた。俺の頭は正常ではなくなったのかもしれない。

100万年以内に小惑星が衝突してしまうとなれば話が変わってくる。だってあと1,994,000年の人間と 〈ねこ〉の関わりを考察しなければならない。人類は氷河期や火山噴火や隕石の衝突によって滅んでしまうのか。藁にもすがる思いでページを進めていく。すると……希望はあった。宇宙だ。どうやら人類は宇宙へ進出していくらしい。

GO TO UNIVERSE!

ARE YOU READY…?






Yeah!

This is 太陽系 始まる宇宙への大冒険
見当違いならI’m sorry でも七転八倒のJourney
になることは間違いなし Long time no see 待ったなし Don’t Stop!
Like ウォーリーを探せ たくさんの星から見つけるHope Hope!
早くロケット飛ばせ 暗い宇宙にEverybody say “Dope Dope”!
かつてはMoon アポロが踏み出す 偉業成し遂げClap Clap!
現代はEarth 始まりのverse 地球で暮らすLong time
未来はMars? 他の星へmove 火星に住むためTerraform
そのうちTitan? 大胆なhook 彗星ハイウェイConstruction
科学の発展、必要不可欠。足踏みバッテン、過半数可決
で進めて行こうぜ宇宙計画。伊藤計劃もガッテンする未来明確!

Yeaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaah!
Fuuuuuuuuuuuuuuuuuuuu!





テンション上がりすぎてエセラップ披露してしまった。

去年からMCバトルの動画を観るのが趣味で、ときどき韻を踏んでみたい衝動が抑えられなくなる。やってみるとこれが本当に難しい。全世界のラッパーほんと尊敬する。特にDOTAMAさんマジリスペクトっす。話がだいぶ脱線してしまった。心から謝るから許してちょんまげ。

本の内容が難しかったので、ざっくりざくざくかみ砕いて説明する。当然猫についての言及はなかったから、そこらへんは俺の予想です。

まず、なんやかんやで月にロケットの補給基地を作る。しかしながら、月で宇宙服を脱ぐと体の血液はなんと沸騰するらしい。え、怖っ。「血がたぎる(物理)」は相当嫌なので居住区はありません。基地作った後は完全自動化する。というわけで猫も月には進出しない。はず。

次に火星を温めます。って、なんか料理番組のノリで言ってしまったがスケールは全然違う。温めると氷が解けて水が流れ出す。水があれば農業ができるようになって、植物が増えれば、酸素が生まれる。というわけで人間が住める火星の完成です。さらっと書いたけど、時間とお金はめちゃくちゃかかる。22世紀中の目標らしい。

火星に人が住めるようになれば、きっとペットも移住するんじゃないかな。というわけで、猫は火星に進出します。

火星は地球よりも低重力なので、筋力が弱らないようにかなりの運動が必要になる。めっちゃジャンプできるし、ボールを投げてもどこへ飛ぶかわからない。ちなみに俺は学生時代、スポーツテストで走り幅跳びとソフトボール投げが苦手だった。スポーツテストだけ火星でやりたかった。走り幅跳びは絶対記録伸びるし、ソフトボール投げはみんなの記録が落ちる。

火星に居を構えた人類が次に目指すのは、土星の衛星タイタン。

ただ、火星と違ってテラフォーミングできないらしく、常に寒くて暗い。地表も凍りついていて農作物が育たないから食料も限られる。月と同じように、あくまで補給基地としての役割が強そうだ。そういったところにペットを持ち込むのは難儀だと思うので、タイタンには猫は行かないことにします。

どんどん、人類の領域は広がっていく。土星の衛星あたりに拠点を作ったら、その先――ついに太陽系よりも外側の領域に向けて開拓していく。海王星の外側にあって、ハレー彗星とかが流れてくる「カイパーベルト」という領域。ワンピースの「カームベルト」になんとなく語感が似てるね。カームベルトは海王類がうじゃうじゃいるけど、カイパーベルトは彗星がうじゃうじゃあります。

この、カイパーベルトにたくさんある彗星に補給基地や拠点を次々と建設していく。このころにはロボット技術がすさまじいので、ロボット1体送り込めば、自分を複製する工場を作って量産して、基地を作るための素材等も現地で採掘・加工して組み立ててくれるらしい。すごい世界。そんな感じで彗星群を高速道路に見立てて、彗星をサービスエリアみたいに転々としながらさらに先まで進めるようになる。

カイパーベルトにサービスエリア作ってさらに地球から離れると「オールトの雲」という領域になる。なんかラストダンジョンっぽい響き。ポケモン初代の「チャンピオンロード」みたいな。違うか。聖剣伝説3の「マナの聖域」みたいな。違うか。FF9の「記憶の場所」みたいな。違うか。絶望的な例えの下手さ!

その「オールトの雲」には何があるかというと、もちろん、結局、彗星がたくさんある。地球によく似た惑星も見つかっているらしいよ。ともあれ彗星に補給のためのサービスエリアをたくさん建てて、人類が住めるような星を探し、開拓していく。

ただ、めっちゃ遠い。遠すぎる。現時点で、火星への往復は2年くらいかかる。それよりさらに先のオールトの雲の先にある地球に似た惑星「ケンタウルス座アルファ」への往復には2世紀かかる。桁がぶっ飛びました。普通に世代をまたいじゃう。

世代をまたいで宇宙船で旅するには、宇宙船1隻でだいたい200人くらい必要だそうだ。そんなにでかい宇宙船は地球で作れない。それに人口が計画とずれれば、到達する前に食料が尽きたり、人口不足で船の運航ができなくなったりと問題も出てくる。まぁでも、きっと1000年後くらいにはそんな問題解決してくれてるだろう。長期間狭い宇宙船で過ごしていれば当然癒しを求めるに違いない。ということで、数光年先の惑星へ向けた宇宙船に猫は乗っている。

1000年後から一気に1万年後に飛びました。

たぶん、その間は開拓と移住を繰り返す。そして1万年後くらいにはオールトの雲にある惑星のいくつかに人類と猫が進出しているはずだ。人類はどんどん地球から遠ざかる。目指せ天の川銀河。

気づけば随分と遠くまで来てしまった。天の川銀河には、およそ1000億個の恒星があるらしい。宇宙の話を読んでるとジャンプ漫画もびっくりの数値のインフレがしばしば起きる。1000億て。フリーザの53万もちっぽけな数値に見える。だが、数値の大きさなら幽遊白書も負けていないぞ。

左京さんはさすがだよね。天の川銀河の恒星なんか軽く凌駕してる。それは置いておいて、恒星の中で地球に似た惑星は200億個くらいあるらしい。今度はそれらの惑星を目指して移住や開拓を行っていく。

1万年くらい経てば、まぁ、バイオテクノロジーの進歩で人間が飛べるようになったりとかしてるんじゃないかな。たぶん。ただ、著者曰く人間が翼をつけて飛ぶには6~9メートルくらいの幅が必要らしい。そんな巨大な翼を動かすなら強力な背筋も必要だ。だから、おそらく翼を生やすとしても現代人がイメージする翼にはならないだろう、とのこと。じゃあどんな翼になるんだろう。

翼ってか、ほとんどサンダルクイナみたいになっちゃってたらどうしよう。笑える。その頃には俺死んでるし。

テクノロジーはますます発展していき、天の川銀河にも住める星は増えていくが、この期に及んでまだ超えられない壁がある。光の速度だ。宇宙船や通信の速さが光の壁を越えられないので、何光年も離れた惑星同士は交流するのに何年もかかることになる。するとどうなるか。

彼方のアストラ状態になる。遠すぎる惑星との交流は次第に失われ、それぞれの星で、独自の文明に発展していく。地球の存在を知らない人類が大半になるかもしれない。そもそも、地球は100万年以内に小惑星の衝突が起きる可能性があると前述した。であれば、100万年以内には地球にいた人類も皆移住が完了しているかもしれないのだ。

ここでようやく条件の一つが整った。

だいぶ序盤に書いた俺の仮説だが、覚えていただろうか。忘れていた人のために一応説明しておくが、これは絵本『100万回生きたねこ』の考察である。

で、今ようやく「2.100万1回目は人類がいなくなった世界である。」の条件が整ったわけだ。100万1回目に人類のいなくなった地球で〈ねこ〉が最後の猫生を過ごせばミッションコンプリート。ただ、〈ねこ〉の平均寿命を2年で考えているから、100万年後でもだいたい50万回目。「1.『100万回生きたねこ』というのは、『(人間と)100万回生きたねこ』のことである。」を検証するためにはあと100万年後まで考える必要がある。

天の川銀河あたりの人間が住めるような環境には既に人間のような知的生命体がいるんじゃないかと想像を膨らませておこう。まだまだ人類は近くの宇宙しか行けないが、何光年も先の宇宙の、似たような星にならいるかもしれない。缶コーヒー「BOSS」の宇宙人ジョーンズみたいにフレンドリーな関係を築けたらいいよね。

このあたりでやっと、光の速度という壁を越えられるようになるかもしれない。取りだしたるは「ひも理論」。

こちらはアメリカの大人気ドラマ「ビッグバンセオリー」のシェルドン。理論物理学者で、「ひも理論」を研究している偏屈な天才肌の学者だ。理系大学の最高峰ともいえるカリフォルニア工科大学で働く天才オタク学者たちの日常が面白おかしく描かれているこのドラマはHuluで絶賛配信中なので、契約している人はぜひ見てほしい。閑話休題。

まず、現在の根本的な物理法則はアインシュタインの一般相対性理論と量子論で成り立っている。ただし問題はこの2つの理論はまったく別々のもので、統合することができない。統合することができないと、宇宙空間に発生するワームホールのエネルギーが計算できない。その2つの理論を統合する可能性を持つのが「ひも理論」だ、と著者は語る。

ワームホールの発生を意図的に行い、コントロールできれば、光の速度を超えることができるかもしれない。すると10万年~100万年後のときに交流が疎遠になっていった惑星との交流がまた始まる。そして、銀河全体が巨大なネットワークでつながるかもしれない。スケールでかすぎ。でも、ワームホールとか超高速とかテンション上がっちゃうね。

ワームホールを使ったワープが可能になれば、宇宙探検家が様々な星を旅するようになるかもしれない。旅の途中、偶然地球のそばを通ることだってあるだろう。そのタイミングで〈ねこ〉が生涯を全うすれば、およそ200万年ぶりに〈ねこ〉は地球への帰還を果たすことになる。

これでようやく、200万年後まで想像できた。地球のとある村から始まって、最終的には銀河全体のネットワークにまで話は広がったけれど、それでも人類のいなくなった地球にふたたび〈ねこ〉を降り立たせることができた。

2つの仮説の検証は十分できたんじゃないだろうか。人間と100万回生きて、地球だけではなく様々な星へと降り立ち、そして最終的には人類のいなくなった地球で100万1回目を迎えた〈ねこ〉。辻褄も合うはずだ。

……本当に?

100万年も しなない ねこが いました

『100万回生きたねこ』 P1より引用

もう何度読み返したかわからない冒頭の文章。長く壮大な検証も200万年後までたどりつき、感慨もひとしお。と思っていた矢先に脳裏にはある1つの疑問が。

誰?

このナレーションを語っているの、誰?

「100万年も死なない猫」だと、どうしてこいつにはわかるんだ?いや、もちろん、ただのナレーションだと片づけることはできるしそのほうが簡単だ。でも。もし、そこに意味があったとしたら。このナレーションをしている誰かが、ずっと〈ねこ〉のことを見ているとしたら?

これまでの考察が、すべて変わってくる。

まず、シンプルに誰?という問題だ。絵本を読み返して、見逃しがないかどうか探った。するとそのとき一筋の光が――。

「100万回生きた」という〈ねこ〉の発言に対して、〈白いねこ〉のこの反応、あまりに無関心すぎないか?もちろん「自分語りUZEEEEE!」と思ってる可能性もあるけど、もし〈白いねこ〉が”すでに〈ねこ〉が100万回生きたことを知っている”状態だったとしたらどうたろう?知っていれば、当然、驚く必要もないわけで。

そもそも〈ねこ〉は「100万回生きたねこ」ではなく「100万回1回生きたねこ」だった。なら、タイトルにある「100万回生きたねこ」は別にいるんじゃないか?

謎のナレーター、100万回に驚かない〈白いねこ〉、「100万回生きたねこ」というタイトル。

そうか、そういうことか。

この物語の本当の主人公は、〈ねこ〉ではなく〈白いねこ〉のほうだった。彼女こそがじつは「100万回生きたねこ」だったんだ……!

なぜ、この絵本で7回の猫生しか描かれていないのか。描かれている時代がバラバラなのか。それは〈ねこ〉と〈白いねこ〉が偶然同じ場所、同じタイミングで転生できた回数だ。これまでたどってきた猫たちの足跡を見てもらえればわかるだろう。彼らは時間が経つにつれ、地球の大陸を超え、海を越え、全世界へと広がり、最終的には人類と共に宇宙の惑星にまで進出する。転生した時に出会う確率はかなり低いはずだ。100万回中7回。わずか0.0007%。現時点でも数億匹の猫がいるというのだから、これでもかなり多いほうだ。

同じタイミングで転生したのなら、もっと早くに結ばれてハッピーエンドを迎えられたのでは、と思うかもしれない。だが〈ねこ〉と〈白いねこ〉には大きな違いがある。

100万人の 人が、そのねこを かわいがり、 100万人の人が、 そのねこが しんだとき なきました。

『100万回生きたねこ』 P1より引用

〈ねこ〉は100万回もの間ずっと人間に飼われていた。逆に、〈白いねこ〉は100万回ずっと野良猫だったと考えるのが自然だろう。彼女は研ぎ澄まされた野生の嗅覚で、転生を繰り返してなおある同一の匂いが変わらず存在することを嗅ぎ取った。あら、私の他にも同じように猫生を繰り返している猫がいるのね。彼女はこの〈ねこ〉に興味を抱く。それからは偶然同じ場所、同じタイミングで転生した際には彼のことをずっと見ていたのだ。見ていたが、近づきはしなかった。彼は、”人間の”〈ねこ〉だったから。

〈ねこ〉が野良猫という猫生を選んだのと、〈白いねこ〉の100万回目の転生が重なり合った奇跡のタイミング。それが絵本で描かれている最後の猫生だ。悠久の時を経て、二人は始めて言葉を交わし、愛を育む。これは、こんなのは、感動超大作でしかないっ!

改めて冒頭で書いたことを繰り返そう。

『100万回生きたねこ』は壮大なSF超大作である。

〈白いねこ〉が死んでしまった後のナレーションは?

って、いい感じに締めたかったんだけど、この締め方だとツッコミどころもある。最後のナレーションだ。ナレーションが〈白いねこ〉の語りだとしたら、彼女が死んでしまい〈ねこ〉が初めて泣くシーンのナレーションには説明がつかない。じゃあ、あのナレーションは誰だし。

それでも、最後のナレーションは〈白いねこ〉だと俺はあえて言い張ろう。

他でもない彼女自身が語っているのだ。彼女の猫生はラストシーン時点で「100万回目」だった。〈ねこ〉が「100万1回目」で生き返らなくなったとしたら、彼女にも「100万1回目」があってもいいはずだ。

彼女の100万1回目の猫生はおそらくこんな感じだ。

泣いちゃう。自分で考えといてめちゃくちゃ悲しい気持ちになってしまった。

〈白いねこ〉の「100万1回目」はきっと、〈ねこ〉のことを他の猫たちに語り継ぐ猫生だったのだろう。そして、彼女が語ったその物語こそが、今こうして俺たちが読んでいる「100万回生きたねこ」という物語なのだ。

嫌いでも関わることを続ける〈ねこ〉の凄さと教訓

というわけで、「100万回生きたねこ」という作品を考察した結果、200万年という壮大な時間旅行を経て〈ねこ〉と〈白いねこ〉の出会いが描かれていることがわかった。

自分のことが大好きでそれ以外は嫌いな〈ねこ〉。第一印象は自己中ナルシストだと思いがちだが、よく考えてみてほしい。転生するたび「○○なんかきらいでした」と思っていた猫は、それでも100万回、人間と関わっていたのだ。これすごいことじゃない?

俺にも、嫌いな存在ってのはいる。

  • ものもらいが痒くて目をこすっていただけなのに、「眠そうにしてんじゃねぇ」と怒鳴ってきた学生時代の先生
  • 学生時代、金のない俺を「絵に興味ありませんか?」とギャラリーに連れていき、1000円のポストカード買わせたお姉さん
  • コンビニでバイトしてる時、「品物を袋へ入れるのが雑」と本社にクレームをしたおばあさん(店長と一緒に監視カメラで確認したけどそんなことそんなことなかった)
  • 徹夜明けの始発でつい爆睡してしまった俺のバッグを盗んでいった誰か
  • 「財布を盗まれて地方に帰る電車代がなくなったから貸してほしい」と言って、俺は電車代と連絡先を渡したのにあれから一切連絡をくれないおじさん

思い出した存在いくつか書いてみたけど、この人たちともう一度関わりたいかと言われればノーと答えざるを得ない。怒鳴ってきた先生には二度と会いたくないし、絵のキャッチにも捕まりたくない。

普通だったら、こんな風に「嫌い」なものは遠ざける。二度と関わりたくないし、顔を見たいとも思わない。だけど〈ねこ〉は、自分のことが大好きで、人間のことが嫌いだったのにも関わらず、100万回も共に過ごして愛された。すげぇよ〈ねこ〉

ただし、嫌いなものと関わり続けるには注意が必要だ。〈白いねこ〉との出会った時、〈ねこ〉は彼女に自分の過去や身体能力をアピールしてみせた。かなりウザい。嫌いなものと関われば関わるほど、かえって自分のことはますます好きになり、かつての栄光や能力をアピールしだすようになるのかもしれない。

そんな人間にならないようにするには、

「おれは、100万回も…。」

と いいかけて、ねこは、

「そばに いても いいかい。」

と、白いねこに たずねました。

『100万回生きたねこ』 P1より引用

自分のことをペチャクチャ話さないで、相手のそばに行って、相手のことをもっと知ろうと一歩踏み出すこと。これが重要なんだろう。

俺も、もっと人と関わろう。ここでこんな2万文字の考察なんてペチャクチャしゃべってないで、一歩踏み出すことが大切だ。気づけば彼女との待ち合わせに今日も今日とて遅れているじゃないか。よし、ならばまずは愛しのスイートハニーにこの気持ちを伝えよう。

このあと100万回分怒られました

みんなも、遅刻するときは事前に思いを伝えておこう。

おわり

さいきんのとうこう