壊れたPCと修理屋のおっちゃんとの絆と生まれないドラマ

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アラタプライマルという漫画をご存じだろうか。知らん人のために簡単に説明すると、主人公のアラタ君は電化製品に近づくだけで壊してしまう特異体質の持ち主。そんな体質だから人里離れて電化製品無しのサバイバル的な生活をしてたんだけど、ある日まぁびっくり原始時代みたくなっちゃって。。。みたいな話なんだけど、ジャンププラスのアプリで読めるから興味ある人は読めばいいと思う。

突然なんでそんなこと言いだしたのか。そんなアラタ君みたいな体質になってしまったのかってくらい身の回りの電化製品が壊れ始めたのだ。いや、マジで。

違和感があったのはまずスマホだ。タップしていると急にボタンが連打される。pornhubとか見てるときに勝手に広告とか連打されるの。あるいは全然興味ない海外の露出交尾とか閲覧しちゃうの。海外の動画ってなんであんなに編集滑らかなの。俺が見たのが特別編集うまかったの?シーンの切り替えとテンポがなめらかすぎて全然性癖とかけ離れてたけど不思議と魅入っちゃったよ。本当に勘弁してほしい。

そもそも俺のスマホは化石かっていうほど古いしスペックも低い。最近始まったグラブルのイベントで魚釣りのミニゲームがあってさ、的がぐるぐる回って魚のポイントに来たらタップするっていうシンプルなやつなんだけど。スペック低すぎて的がワープすんの。ワープするタイミングがランダムだし、タップした瞬間に少し固まるから「ここだ!」って思ったタイミングとも若干ずれるしひどいもんですわ。だったらぬし釣り64のほうが簡単だったわ。いや、それでもぬし釣り64のほうがシビアでむずいわ。訂正してお詫び申し上げる。

スマホのやつがスペック低いのと知らん場所勝手にタップするもんだから、家だとパソコンでネットサーフィンやらグラブルやらやってたんだけど、次はPCが壊れてしまった。

パソコンは何の前触れもなく突然終わりがやってきた。ある日突然フリーズした。フリーズといっても何かいつもと違うやつだった。感覚で何となくわかったんだけど。いつものよくあるフリーズって、なんだかんだマウスのアイコンが読み込み中だったり、画面が若干白くなるだったり、パソコンの内部で「フィーーーーン」ってなんかうるさい音を発すだったり、何かしらパソコン君の頑張ろうっていう意思が見受けられるじゃん?それが全く無かった。

スンーー。

ってなにも言わなくなる感じ。人喰いの大鷲トリコが暴れてるときに撫でててあげたときと一緒。あのスンって感じ。マウスもキーボードもどんな操作をしても何も反応しないし、かといってパソコンが頑張って稼働して処理を実行している素振りもない。はじめは楽観だったよ。そりゃね。ブルースクリーンのお仲間みたいなもんだろうって。しょうがないから強制終了っと。電源ボタン長押し。ポチーっと。そんで起動。よし、電源入った。Lenovoのロゴが表示されて、Windows10のロゴが表示されるのがお決まりの流れ……。あれ?Lenoboのロゴ来ない?あれ?画面真っ暗だけど?おーい。電源入ってるよね?入ってるね。Lenovo来ない。もっかい強制終了して電源オン!来い!Lenovo!来い来い!カモーン。カモン!レノボ!カモン!ノバウサギちゃん!ノバウサギは今関係ない!こんなにLenovoを切望したことは人生で無かった。それくらい求めたがLenovoは全く姿を見せなかった。

しょうがないから勝手にタップするスマホで「パソコン 電源 入る 画面 付かない」で検索しましたよ。最初のメーカーロゴが出ないのはPCの部品が壊れてるかもって出てきましたよ。ショック!まぁね、でもね。俺ももう大人ですよ。小さいころにお気に入りのゾイドを間違えて排水溝に落としてしまったときは1か月近く落ち込んだけど、落ち込んだって何も始まらないってことを学んでいるのです。さっさとスマホで「パソコン 修理 持ち込み」で調べて近場のパソコン修理ショップを検索。良さげなところに持っていきましたよ。

グーグルマップを経て辿り着いたるは昔からあるような感じの電気屋っぽい店だった。扉を開けるとすぐにフロアが始まるんだけど、そのフロアの手前に4席くらい受付スペースがあって、それ以外は段ボールの山。若干この店で大丈夫かと心配になる。そもそも扉を開けたけど、誰もやってこない。俺はおそるおそる「ごめんくださーい」と大きめの声で尋ねる。すると、奥のほうで「はい」と聞こえた。男性の声だ。良かった。人がいたと安堵し、その人が来るの待つ。

「お待たせしました」という声とおもに奥のフロアからやってきたるは40~50歳くらいの初老のおっちゃん。店の雰囲気から素人や一見さんにはめっぽう厳しい職人肌の頑固おやじを期待していたのだが、そうではなくサイボウズでチーフエンジニアでもやってそうな、気さくでダンディなおっちゃんが出てきた。この方が一人でこのお店をやっているのだろうか。俺はさっそく持ち込んだパソコンを彼に差し出し事情を説明した。

ふむふむなるほど、と俺の話を聞くと軽くパソコンの様子を調べ、ちょっと預かって見てみないとわからないと言われた。まぁオーキドよね。そりゃそうじゃよね。おっちゃん、俺も全然そのつもりっす。預かっちゃって見ちゃってくだせぇな。と伝えると店のシステムを説明してくれた。何でも調査した段階でお金が発生するか直っても直らなくても金はかかるとのこと。あと、直るかどうかは今のところ50:50くらいとのこと。おっちゃん、ぜんぜんオッケーよ。俺もエンジニア業務とかやってると「それ調べないとわかんないっすねぇ」っていう案件の方が多いっすから。で、調べるのも有償にしようとするとわーきゃー言ってくるクライアントもいて大変なんだよね。わかる、わかるよ、おっちゃん。俺は勝手におっちゃんに感情移入して喜んでお金を支払う旨を伝えた。店を出るときにおっちゃんが「できるだけ直せるように頑張ります」と爽やかに言っていた。がんばれ!おっちゃん。

というわけで翌日。ドキドキしながらおっちゃんから電話を待っているとスマホに知らない番号から着信が。もしやと思って電話に出ると案の定おっちゃんだ。ちなみに友達がいないと簡単に電話の相手が予測できるからオススメだ。あと迷惑メールで友達を装っているのも簡単に見破れる。どちらもそんな友達なんていないのだ。おっちゃん、電話ありがとう!どうだった。と聞いてみるとおっちゃんの口調が少し重い。もしかして……。

「調べましたが、残念ながらこちらではどうしようもなかったです」

おっちゃん、そんな……。俺は少しの間言葉を無くした。長年使っていた俺のLenovo……。いや、そんなに長年でもない。去年中古で安くてそこそこ良いスペックだから買ったやつだ。じゃあそんなに思い入れないな。よし、大丈夫だ。俺は素直にわかりましたと伝える。

「それで、説明の時に診断料いただくと言っていたんですが、できることが無かったので今回は無償にさせてください」

おっちゃん!無償だなんて!そんなこと言うなよ!きっとおっちゃんは頑張ったよ。何時間使ったかはわからない。でも、仕事で引き受けた以上はきちんといろいろ調べて直せるかどうか試行錯誤したはずだ。それで直らなったってことは、悔しいのはおっちゃんの方だよな。俺が落ち込んでる場合じゃない。俺はおっちゃんに思いの丈をこんな風に伝えた。

「無償でいいんですね。ありがとうございます」

銭やで。この世はしょせん。無料でいいなら無料を享受するでしょ。

まぁ、とはいえね。無料で調べてもらってパソコン受け取ってはい、さよならっていうのはあまりにも人情がないでしょ?おっちゃんだって一人で店やって人との繋がりに飢えてるだろうし。親切には親切をもって返さなければ。和を以て貴しとなすとは俺のセリフですわ。よしお金の代わりに何か飲み物でも渡すか。最近夏だし。暑いし。ここは熊谷市かっていうほど暑いし。「これでもどうぞ」ってポカリスエットのひとつやふたつ持っていったら「良ければ少し涼んでいきませんか?」っておっちゃんコープ誕生だよ。見た目的に刑死者のコープかな。何のことかわからなかったらペルソナ5R買えばいいと思うよ。まぁ俺はパソコン受け取る道中でおっちゃんと仲良くなる妄想をしていたわけ。ルンルンランランと歩きながらダラダラダラダラダラと汗だくで店まで向かう。

その途中におっきなスーパーあったからここで飲み物買おうって思って中に入りましたよ。困ったことが起きました。無い。ポカリスエットが無い。ポカリスエットが無いスーパーなんてあるのか。いや、厳密にはあるんだ。冷えてないのが店頭に。でも、冷えてないの渡したら「良ければ少し涼んでいきませんか?」って展開になりにくいじゃん?これは困った。

さぁどうすると色んな棚を巡っていて最終的にたどり着いたるは菓子折りコーナー。まぁ菓子折りがオーソドックスだよね。でもね、菓子折りってどうなん?なんか挨拶行くときに典型みたいな立ち位置だけど、あんまり美味しそうじゃなくない?なんなら1000円くらいの菓子折りより、1000円分のジャガビーのほうが嬉しくない?とか考えたけど、しゃあない、これにしようと800円くらいのフィナンシェ6個入りを購入。これを渡して一人で店をやるおっちゃんは「一人じゃこんなに食べられないからちょっと食べて涼んでいきませんか」って展開になるにきまってる。ドラマってのは偶然生まれるんじゃない。こっちから作っていくんだ。よっしゃ。満を持しておっちゃんの店へ。

昨日と同じく扉を開けても誰もいない。ごめんくださーいと声を上げると奥のほうで「はい」と男の声。そこで若干の違和感。あれ?なんか今の返事ちょっと若い声じゃなかった?あれ?そう思いながら待っていると奥のほうから若い男登場。放心状態。お前誰だよ。おっちゃんの店で何してんねん。そう思いながら「昨日こちらの店にLenovo預けた物です」と伝えると、その青年は「少々お待ちください」と奥のフロアへ引っ込んだ。あ、わかった。おっちゃんの孫だな。夏休み中は孫が手伝いに来てくれてるほんわかエピソードが待ってるに違いねぇ。と思っておっちゃんのことを待っていると「お待たせしました」という声とともに奥から人が。驚くことにまたもやおっちゃんではない。さっきの青年よりも年上の青年だ。俺のおっちゃん妄想が崩れていく。おっちゃんが一人で切り盛りしている店だと勝手に思って盛り上がっていた。俺は買ったフィナンシェを背中に隠し、パソコンを受けとる。

いや、まだわからない。二人ともおっちゃんの孫という可能性がある。年上の青年は孫というには年上過ぎる気もするが希望は捨てない。パソコンを受け取ったところで、奥からついにおっちゃんが現る。

「あ、すみません。そちら私の担当です」

おっちゃんが青年たちに向かって説明した。その会話の距離感。確実に孫と祖父の関係性じゃない。従業員同士の関係だね。うん。そっかぁ。おっちゃんの店じゃなかったのか。俺はパソコンと気恥ずかしさをバッグにしまってそそくさと店を出た。菓子折りの袋は持ったままだった。このフィナンシェ渡せばよかっただろうか。いや、こんなのいらないだろう。俺はとぼとぼと帰り道を歩いた。変わらずダラダラ汗は流れた。

ちなみに帰って菓子折りの袋をビリビリに破いてフィナンシェを食べたらおいしかった。
菓子折りのお菓子も悪くない。だが、これとジャガビーだったらジャガビーのほうがいい。

とまぁ、そんな紆余曲折があり、新たに中古パソコンを購入し今に至るわけだけど、
つまりはなかなかドラマって生まれないよねって話よ。
いつかはほんわかドッキリハートウォーミングエピソードみたいなの書きたいね。

こちらからは以上でーす。