かれこれ5、6年前の話になるのかな。おばけトークってアプリがあったんです。今はもうサービス終了してるっぽいですが、みなさんご存じですか?
どんなアプリかを一言で説明すると「コンセプト匿名SNS」だ。
ざっくり特徴をあげると以下の点かな
- ユーザーひとりひとりが「おばけ」
- 「おばけ」が発信するつぶやきが「コトダマ」
- ホーム画面でおばけを動かしてコトダマを食べさせる
- おばけがコトダマを食べると「くしゃくしゃくしゃくしゃ」と妙にリアルな咀嚼音が聞こえる
- 食べたコトダマだけがタイムラインに表示される
- 食べたコトダマには返信ができてメッセージのやり取りができる
こんな感じ。匿名型のSNSとかメッセージボトルアプリは当時でも数多くリリースされていたけど、アプリの可愛らしいデザイン面だったり、食べたコトダマのみ表示するコンセプト面ともに他と明確な差別化ができていた気がする。
特にこの「コトダマ」という仕組みが秀逸だったので詳しく語りたい。
繋がってなくても楽しめる「コトダマ」システム
現在メジャーなSNSといえばインスタ、ツイッター、フェイスブック、ティックトック、まぁいろいろあると思うけど基本的な仕組みは変わらない。
たいていはユーザーが特定の人物をフォローすると、その人の投稿がタイムラインに表示される形式でしょ?Facebookなんかは友達申請などあるけど、相互にフォローしあうか一方通行なフォローができるかの違いくらいなもんだ。
SNSを始めた時ってさ、フォローするのすごく面倒なことあるじゃん。
面白い人を探したり、趣味の合う人を探したり、有象無象のユーザーが割拠する中で自分の趣味嗜好に一致する人を見つけてフォローするのってだいぶしんどい。
でも、このアプリにはフォローや友達申請などの概念は存在してない。
不特定多数のコトダマ(つぶやき)が画面上に漂ってて、それを食べることでタイムラインに表示する。それだけ。
指で画面上のおばけを動かしてコトダマを食べさせると「シャクシャクシャクシャク」となんとも癖になる咀嚼音をたてる。
この一見無駄そうな「コトダマを食べる」という行為がとても重要な働きをしている。
フォローしてタイムラインに表示するタイプのSNSはフォローする手間がかかるけど、その代わりタイムラインが自分の選択した情報だけを表示するから関心の持てる投稿が多くなるのが特徴だ。タイムラインに表示された情報を「自分事」として認識できる。
逆にフォローの概念が存在せずに、単に不特定多数の情報を表示しているだけだと、表示されている投稿も何となく「他人事」に思えてしまう。
この「自分事」と「他人事」の境界線はおそらく「ユーザーが選択したかどうか」に分かれる。フォローした芸能人の情報って本来は見ず知らずの他人のどうでもいい情報のはずだけど、「自分がフォローした」という選択があったからこそ自分事としてとらえる。自分事として捉えるとSNS特有の「繋がってる」感覚が生まれる。
おばけトークだと、この「繋がってる」感覚を生み出すための装置が「コトダマを食べる」という行為だ。
画面に表示されたコトダマをユーザー自身が食べるという動作を行うことによって、不特定多数の見ず知らずの人物が発信した情報でも「選択した」という意識が芽生える。
その意識によって、他人の発言でも自分への発信のように感じて、気軽に返信できる。
実際におばけトークをやっていた時は、自分の発言に対して返信がよく来ていたし会話も盛んだった。
友達がいなくても、フォローなんかしなくても、フォローされなくても、気軽に発言ができて、気軽に誰かと会話できる。
そんな良いアプリだったんです。
始めたきっかけ
5、6年前の俺は新卒で営業会社に入っていた。営業先を回って、契約を自力で取れるようになった頃だ。
営業会社ってとことん成果主義で、成績が良ければもてはやされる。
俺は同期の中でも成績が良いほうで、同期や上司からもチヤホヤされて、早い話が天狗になってた。
恥ずかしい話、営業トークでお客さんの心を掴んだり、契約渋ってたお客さんを自分のトークで説得できたりしてるうちに俺ツエー状態になっちゃいまして…。
この身に着けたトークスキルをプライベートでも使ってみたくなっちゃったんだよね。
でも、結構ブラック目な会社だったから時間的拘束も長くて、実際に誰かと会ってトークする時間は無かった。そこで面白そうなアプリを探してたら出会ったのが「おばけトーク」だ。
「これなら見ず知らずの他人と気軽に会話できるし、自分のトーク力も実践できる!」
そう思った俺は早速インストールして使い始めた。
いろんな人と会話できた
使ってみると、だいたいアプリを利用している人は10代~20代前半くらいだとわかった。基本的にはヒマを持て余した学生。
男女比率的にもそこまで偏ってない印象。
よっしゃここで知らない人とたくさん話して営業で鍛え上げたトークを活かしてやるぜ!
なんて思ってたんだけど、想定外の事態が起きた。
普通の会話ができるだけで、割と重宝される
こういった匿名型SNSは出会い目的で利用されることが多い。
「エロい子おる?」
「スカイプしよ」
「ライン教えて」
みたいな輩が数多く存在する中で、普通に呟きに対する感想とか意見を返信しただけで重宝されてしまう。
別に営業で培ったトークスキルなんて使う必要もない。
普通に好きなものの話をして、普通に近況とか話して、普通に相手のこと聞けば仲良くなれる。
仲良くなった人と色んな話をした。
- フジファブリック好きな人と志村さんについて語ったり
- 京極夏彦のレンガ本をなかなか読みおわらない話を聞いたり
- 黒の契約者のアニメをオススメされたり
- 空の境界のアニメをオススメされたり
- 米沢穂信の古典部シリーズをオススメされたり
- 会社の愚痴を聞いたり
知らない人たちと普通の世間話しているうちに当初の目的なんかどうでもよくなってしまった。
色んな人と色んな会話できるの楽しい。
自分の当たり障りない発言にコメントされて嬉しい。
そんな感じで時間のある時はこのアプリにのめりこんでいった。
気づけば見なくなっていた
そんなこんなで、一時期はめっちゃおばけトークアプリを堪能してた。おばけトークで仲良くなった人とかと会ったりもした。
でも、退職とか転職とかリアルで環境が変わっていくうちにアプリを見なくなっていってしまった。
いま思い返せば、営業職の反動だったんじゃないかと思う。
営業の末端だった俺は上から指示された商品を売ってこなければならない。
その商品の出来不出来、良し悪しは関係ない。
だから本心を偽ってでもお客さんに「この商品はいいです。オススメです」と伝え、相手が渋るもんならロジックで相手を納得させなければならない。
それによって確かに表面上のトークスキルは磨かれた。
でも、心では無味乾燥でもいいから本心で思ってることを話したい、会話したいと思ってたのかもしれない。
気づけばサービス終了していた
そんな俺の心の拠り所になってくれたおばけトークは気づけばサービス終了していた。
確かに、完全無料のアプリで課金する要素も無い。かといって広告も掲載されていない。
マネタイズが設計されていなかったのか。ユーザーの増加に仕様が耐えられなくなったのか。その答えは定かではない。
でも、改めて良いサービスだったなと思って記事にしたためてみた。
ありがとう、おばけトーク。
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この記事のオチをどうしようか考えたんだけど、別にオチなんかなくていいのかもしれない。
だって、おばけもコトダマもフワフワ浮いてるものだから。
フワッと終わりまーす。