ねぇ
何
騙された経験ってある?
映画の予告には毎回騙されるな。
予告だとめっちゃ面白そうなのに、
本編見たら思ってたのと全然違う、とか。
それはある。
あとはテレビ番組の「CMの後驚きの結果が〜?」の煽り文句。
ダイエット企画で何かしら対策を講じた上で体重測るんだったら、
体重が減るのは別に驚きの結果じゃない。
だから体重が爆上がりしてるとかだろうって予想するんだけど、
たいてい減ってるんだよね。
まぁ、そりゃあね。
そういう2号はどうだ?
俺は判断できないやつがひとつある。
判断できない?
俺は「騙された」って思ってないけど
人に話すと「それ騙されてるよ」ってやつ。
あぁ、それ騙されてるよ。
ええええ。
結論出すの早くない?
騙されてる人はみんなそう言うんだ。
騙されたって自覚がない。
そうかなぁ。
じゃあ、ちょっと体験聞いてもらってもいい?
いいよ。
かれこれ10年以上前の話なんだけど。
大学生くらいの頃ね。
タバコ吸おうと思って駅前の喫煙所行ったら、ライターが見つからなくてバッグをゴソゴソしてたんよ。
うん。
そしたら後ろから「ほれ、ライター使いな」って声が聞こえてきて。
救世主登場。
振り返ったらライターを差し出してるおじさんがいたの。
「鴨が葱を背負って来る」に続く慣用句「おっさんが後ろからライター差し出してくる」
・・・。
喫煙所でそんなふうに話しかけられたことなかったからさ、
ちょっと戸惑いつつもライター受け取ってタバコに火をつけたんだ。
そんで?
おっさんが「この辺は本当に変わらないなぁ」って語り始めた。
ライターを受け取る=語りかけても良いみたいなルールでもあるの?
さぁね。
でも、ライター受け取った手前無視するわけにもいかないから話聞くことにしたんさ。
面倒なことになる予感。
「おじさんがまだ大学生の頃な、よくこの辺で遊んでたんだよ」
「今はな、引っ越して群馬にいるんだけど。久しぶりに東京に出てきてなぁ」
「そうですか」としか返事が言えない内容だな。
「それでな、ちょっとそこのコンビニでコピー取ってたらさ、
バッグを置きびきされてしまってなぁ・・・」
って遠い目された。
急に話がきな臭くなったな。
バッグ無くした人の第一声が「ほれ、ライター使いな」っておかしいだろ。
いやいや、きっとそのおじさんは自分がバッグ無くしたことよりも他人のライターが無いことに細心の注意を払うおじさんだったんだよ。
そんなおじさんいるのか。
「バッグの中に財布も入ってたから、身分証明証もカードも何もかも無くしちまったよ。もちろん携帯も無い・・・」
東京に久しぶりに遊びにきて、そんな仕打ち受けてるのに「この辺は本当に変わらないなぁ」って言ってたのか。
「仕方がないから帰ろうと思っても電車賃がなくてなあ、
駅員さんに借りようとしたけど身分証明書が必要だって借りられなかったんだ」
交番に行くとか、家族に連絡するとか、いろいろ他に方法はあったんじゃない?
今考えるとちょっとはおかしいかもね。
ただ、その時はおっさんの顔が本当に深刻そうに見えたんだよ。
だから同情しちゃって、おっさんを慰めてた。
「せっかく久しぶりの東京なのに散々でしたね」とか言って。
落ち込むおっさんを慰める大学生の図。
喫煙所にいる他の人たちはどう見えてたんだろうな。
「そうなんだよ。本当に散々で…。うっ、うっ」
って慰めてるうちに泣き出しちゃって。
演技だとしても泣き出すのはすごいな。
演技じゃない、のか?
そこも判断が付かないポイントなんだよね。
普通にガチ泣きだったし、演技だったらすげぇって思う。
ただ、泣き出したことで周りの目が気になっちゃってさ、
あと時間帯もお昼くらいだったから提案したんだ。
「財布も無くなったならご飯食べてないんじゃないですか?
せっかくなのでご飯でも食べながら話を聞きますよ。食事代出しますから」
ザ・お人好しだな。
「じゃ、これで」とか言って立ち去れば良かったのに。
目の前でガチ泣きしてる人をほっとけるほどの神経は持ち合わせてないよ。
それで、何が食べたいか聞いたらさ「それなら学生の頃に食べていた店に行きたいんだけど」って言うからその店に行った。
店の提案はおっさんからしてくるんだな。
おっさんはなかなかの神経の持ち主だと思う。
それでおっさんの案内でカウンター席のみの老舗のカレー屋さんに入ったんだ。
そういうカレー屋さんがなんだかんだ美味しいんだよな。
「いやぁ、ここは変わらないなぁ。
大学の頃来た頃と雰囲気も味も全然変わってない。
味も変わらず、うめぇうめぇ」
おっさん、カレー食べて元気になったな。
「妻ともよくここに来たなぁ。
大学は●●(某有名大)に行ってて妻ともそこで出会ったんだ」
いわゆる一流大学の人なんだね。
というか奥さんがいるなら奥さんに連絡を取れば良いだけじゃないの?
「それでな●●●(大企業の名前)ってわかるか?そこへ勤めてな。最終的に役員までなったんだ」
・・・なんか有名どころの名前をめっちゃ出してくるんだけど。
きな臭さが増してない?
おっさんの華々しい経歴を聞いてるうちにカレーも食べ終わって、その後二人で駅前に戻ったんだ。
カレー屋前で解散すれば良かったのに。
「ご飯ご馳走になっただけでも悪いのに、こんなこと頼むのは心苦しいのだけれど、
群馬に帰るまでの電車代貸してもらえないだろうか」
まぁ、設定上そうなるよね。
設定上って言うなって。
この時点で俺はおっさんの話とか聞いて仲良くなったと思ってるから。
「もともとそのつもりですよ」って電車代を渡したんだ。
ザ・お人好し。ここに極まれり。
そんでお礼言われて改札内に入っていくおっさんを見送って終わり。
俺は良いことしたって清々しい気分になれた。
うーん・・・。
確かに、判断できない。
でしょ?
演技で年下の大学生にガチ泣きまでしないでしょ?
いや、そこは別にどうでもいい。。
え
もしおっさんが騙す側の人間だったら、この段取りはコスパ悪いと思うんだよね。
コスパ?
たぶん今の話的にだいたい3時間くらいの出来事でしょ?
うん。確かそれくらい。
カレー代プラス群馬までの電車代ってせいぜい4000円くらいじゃない?
しかも相手は金も持ってない大学生。
わざわざ騙してまで、ガチ泣きの演技してまでして手に入れたい金額とは思えない。
まぁ、確かに。
時給に換算すると1300円くらいか。
高いことは高いけど、場合によっては0円の可能性もあるから割には合わないね。
もしこの話が喫煙所だけで終わってたなら、確実に騙されてると思う。
30分くらい話してお金もらって、次の喫煙所行って騙してって繰り返せば1日で割とまとまったお金にはなりそうだし。
結局のところ判断つかないってことでいい?
まぁ、今となっては答えはわからないしな。
信じたい方を信じればいい。
だよね。
俺はライターを差し出してくれたおっさんを信じるよ。
そうか。