深夜のLINE狂騒曲

突然のLINE着信ってどうすりゃいいの。

陽キャの皆さまにおかれましては日常茶飯事なのかもしれんけど、俺にとっちゃ異常事態。マジで。

そもそも友達がいない俺には一切来ないんよ。着信どころかメッセージも。ときどき「あ、LINEに通知ある」って思ってもさ、

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いつの間にか登録してた公式アカウント。ありがとうキューピーとしまむら。メッセージくれた数だけならもはや君たちが親友。

俺としてはさ、公式アカウントじゃない一般アカウントの皆さまに頑張っていただきたい。ほんとに応援してる。キューピーちゃんとかしまむら君に追い付け追い越せ切磋琢磨してほしい。

でもさ、みんな全然くれないんだよね。メッセージ。

聞いてくれていいんよ?おれが最近どうしてるとか、何食べてるとか、どんなアニメ見てるとか、ハマってるゲームとか。こっちは全然ウェルカム。ジュマンジなんかよりもウェルカムトゥザジャングルよ。

こんなにウェルカムオーラ全開なのに送ってこないなんてさ、みんなね、シャイボーイ。もしくはシャイガール。

って思うことにしてる。

で、話戻すわ。

半年前のことなんだけど

突然さ、LINEに着信があったんよ。

何年も会ってない大学時代の後輩から。

メッセージすら全然来なかった俺のスマホに。

画面に映る「河内」の二文字。

いやさ、

段階ってものがあるじゃん?

俺の思う友達ステップ的には早すぎるよ、電話は。

ステップ5くらいだよ、それは。

素通りされたステップ1~4たちがポカーンってしちゃてるから。

しかも、

何時だと思ってんの、いま。

午前1時。

バチクソ深夜。

深夜に突然電話してきて、「あ、ごめん寝てた?なんか急に声聞きたくなってさ」みたいな感じ?

彼女面?

バチクソ彼女面でしょうか?

河内は男だから彼氏面でしょうか?

いやいや、ちょい待ってくれ。

何年会ってないと思ってんの?大学卒業してから会ってないってことは7、8年。

7、8年は、四捨五入したら何になると思う?

10年?

ううん。

無限。

それはもう果てしなく大昔すぎて思い出せない。

俺と河内はどれくらい仲良かったのか、どんな話をしていたのか、共通の趣味はあるのか、何も思い出せない。

そんなことを考えてスマホの着信画面を眺めてる。

数秒後、まぁ切れるよね。当然。

そこでさ、一つの可能性が浮かぶ。

間違い電話じゃね?

そもそもこんな時間に電話とかかけてくる間柄じゃないし。

例えば、俺の名前に似てる人、タティッカーワ・ユタカーナみたいな名前の人がいて、時差12時間くらいあるカナダとかに住んでるとしたら?深夜の電話も間違える理由も辻褄が合う。名推理だね、我ながら。

だとすれば、河内はタティッカーワ・ユタカーナが電話に出ないと思ってるかもしれないし、タティッカーワの方は河内から電話が来なくてヤキモキしてるかもしれない。

教習所でオジサンが言ってた。色んな「かもしれない」を考えて未然に事故を防ぎましょうって。

こんなことで二人の友情が事故ってしまうのは忍びない。こりゃあ一肌脱ぐしかない。

さっそく河内にメッセージを送る。-

– – –
俺「間違い電話?」

河内「間違いじゃないです(笑)」
– – –

違った。かもしれない運転、超絶無駄だった。俺の渾身の推理が打ち砕かれて、さながら二重の極みで壊される岩。しかも笑われてるやん。隠しきれないショック。

それならどうして?疑問が脳内を走り回る。それに答えるように河内から続けてメッセージが来た。

– – –
河内「時間があれば飲みませんか?」
– – –

え?どういうこと?やっぱり送る相手間違ってるんじゃ?

だってさ、近いんよ。距離感。月1くらいで会ってるくらいのそれじゃない?そこまで頻繁に会ってないけど、お互い気の向くままに誘って飲むくらいの距離感の誘い方でしょ。

わからん。なんて返事をすべきなんだ。

文字を入力しては消して、あーでもない、こーでもないってやってたら突如事故る指。

ポチ。

通話ボタン押しちった。やば、すぐ切らなきゃ…

テレテッテン テレテッテッテーン♪

あー、LINEの電話かけるときの音久しぶりに聞いたなー。

なんてノスタルジー感じてたら、そりゃ逃すよね。切るタイミング。

「もしもしー。お久しぶりっすー!」

電話でちった。

「お、お、おう、久しぶりー。元気してる?」

大丈夫?声出てるか俺。なんか全然声出ないって思ったら、そりゃ深夜だもの。寝る前だもの。なんなら寝てたよ、喉は。今日はこれ以上仕事しないでいいかなって思ったら、まさかの深夜のサビ残。喉が可愛そう。頑張れ、喉。

「元気っすよー!いま内藤と飲んでるんですけど、一緒に飲みませんか?」

え?え?

ちょっと待って。

いったん落ち着こう。テンパったときは状況を整理しろって喫茶店で隣席のギャルも言ってた。

河内はいま内藤と飲んでる。

内藤ってのは河内の同期、つまり俺の後輩。

その状況で俺に飲みの誘いをしてる。

は?

今から?

再三になるけど、深夜1時。

どこだかしらんけど、今から身支度整えて飲んでる場所に来いってことかしら?

あー、はいはい、わかりました。名探偵ふたたび見参。偶然俺の家の近くで飲んでるから呼べば来れるんじゃないかって考えたわけでしょ。

まぁね、せっかく後輩が誘ってくれたんだし、徒歩で行ける場所だったら顔見せるくらいしてもいいかもな。

「どこで飲んでんの?」

「新宿の居酒屋っす」

無理。

新宿まで電車で小一時間かかるわ。またもや打ち砕かれる渾身の推理。河内は電車のダイヤが24時間の国で育ったの?どう考えたら俺が来れると思ったん?わからん。

「もう電車ないよね」

「あ…!ははは、確かにそうっすねー!」

気づいてなかったらしい。そんなことある?あと、こっちは寝る前、あっちは飲んでる最中。テンションの差、ぜんぜんついていけない。電話口の声、大きすぎ。さっさと断って寝よ。

「電車無いし、行けないわ。ごめんな」

「そんなあっさりっすね!ちょっと内藤にも代わるんで待ってください」

まさかの代打。

9回裏2アウト、バッター変わりまして内藤。みたいな展開。

意味なくないか、その代打。深夜だし、電車無いから物理的に行けないし、既に断ってるし、なんならさ、既に3アウトでゲームセットよ。もうそっち側に粘りよう無くない?

「お久しぶりです。内藤です」

「おう、久しぶりー。飲みに行けなくてごめんな」

ここでピッチャー立川の渾身のストレート。ど真ん中の直球で先に断りと謝罪を投げ込みます。

「まぁ、電車無いんでしょうがないですよ。河内と飲んでて立川さんどうしてるのかって話になって電話してみたんですよ。お元気にしてましたか?」

おっとバッター内藤、立川の直球を流してファール。打つのは諦めて、ファールで粘る作戦か。果たしてその作戦に何の意味があるのか。

「そうなんだ。こっちは元気でやってるよ。そっちはどうなの?」

立川選手、悪い癖が出ました。相手が質問してきた時に、社交辞令で同じ質問を相手に返す癖だ。これは長い打席になりそうです。

「結構仕事が大変ですけど、いつも河内と飲んで楽しくやってます。えぇっと……」

内藤選手、粘ろうと頑張りましたが、重大な事実が飛び込んでまいりました。彼は口下手です。大学時代から口下手で、周りの人たちと1分以上会話が続いているのを見た記憶がありません。これは代打としてはあまりにも不適任です。

「まぁ、今度時間があったら飲もうよ」

相手が次の言葉を探している間に立川選手が締めの文句を投げ込みます。これでゲームセットなるか。

「はい、じゃあ河内に戻します」

まさかの再代打。まさかの禁じ手。別に内藤で電話を切っても良かったんじゃないか。何でまた戻したんだ。

「代わりました。河内っす!いやぁ!ほんと懐かしいっすね。声だけでも聞けて良かったすよ」

「せやな。まぁ、今度時間があったら飲もうよ」

河内のテンション高すぎ。もうね。いい加減電話切りたいねん、こっちは。

「そうっすね!じゃあ、また連絡するんで次こそは飲みましょう!」

「おう、次は電車動いてる時間に誘ってくれ」

「ははは、わかりました!ぜひ!」

「はいはーい、それじゃお疲れー」

ゲームセット。10分間にわたる長い試合に幕が下りた。

まぁ、こんな内心嫌そうに応対してるけど、
ほんとは嬉しい。かつての後輩がふと思い出して連絡してくれるなんてさ。

ここ7、8年で一度もそんなこと無かったし。7、8年で思い出してくれた人、この後輩たちだけ。すごい、俺の存在感の無さ。

社会人になって友達って呼べる人、どんどん減っていったけど、2人もの後輩と飲む約束しちゃうなんて。もうね、陽キャの仲間入りですよ。やっほい。



あれから半年。

俺のLINEの通知は相変わらず鳴かず飛ばず。通知無さ過ぎて壊れてんじゃないかって思ったけど。

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とか公式アカウントはいつも通り俺にお得な情報をお知らせしてくれる。

なんかテンションの高さ的に翌日くらいには飲み日程とか調整する雰囲気だったじゃん?あれから連絡一つも無いんだけど。

俺ってあれなの?

7、8年に1回しか連絡とっちゃいけない存在なの?どっかの彗星かな?

もう開き直って彗星ってことでいいや。

また、7年後くらいに後輩から電話来るといいな。

おわり。