「論破したいだけの人」に絡まれた話

ひとりブログサーキットフェス【NOTE Stage】に掲載したものを引っ越ししました。

営業というのは本当に色んな人に出会える職種だ。売る商材によって出会う人は偏るかもしれないけど、世の中には色んな道を辿ってきた人がいるもんだと当たり前のことを実感する。

なかにはホントかよと思うような人物もいた。表の顔は飲食店、でも裏の顔は業界のドンだと名乗っていた人は今元気にしているだろうか。今でも裏で業界を支えているのだろうか。

そんな中でも思い出深い人がいる。新卒で営業のペーペーだった時に出会った「論破したいだけの人」だ。

リスケのご利用は計画的に

その日のアポイントは3件入っていた。1件目は朝早かったから会社には寄らず直行した。移動途中に送られてきたアポイントの詳細を読む。

アポイントの電話をかけていた人が、案内した内容と話した人の雰囲気やヒアリングしたことなど細かく書いてくれている。

そのころは営業先に訪問するのも手慣れてきたころだった。

移動している間に頭の中でざっくり商談を組み立ててしまおうと、1件目から順番にシミュレーションする。

3件目でふと気になる情報を目にする。

「リスケで先方が怒っている可能性あり」

あぁ、なんらかの事情で前行けなかった人がいるのかな。これは3件目に行く前に経緯とか誰が本当は行くことになっていたかとか聞いておいたほうがいいな。俺はあとでアポイント担当の人に連絡する旨を伝えて1件目の商談へ向かった。

***

1件目、2件目ともにあまり良い結果とは言えなかった。片方は決裁者ではなく判断を保留されてしまい、2件目は金額のところで渋られてしまい再訪となった。最近成績が上がっていないからそろそろ取っておきたい。3件目に望みをかけるしかない。

俺はそう意気込むとアポイント担当に連絡を取る。リスケになった経緯と怒っている具合を聞いた。

「これって時間を間違っちゃったアポなんだよね。立川くんに入れようとしたアポが重複しちゃっててリスケするしかなかったんだ」

同期のアポイント担当がそう言った。

なるほど。もともと自分の予定が入ってるところに追加でアポイントを入れてしまったのか。

まぁ前から自分が行く予定で、今回も自分が行くなら謝りやすいし弁解もしやすい。

「それでリスケした時に『何で来れなくなったんですか』って聞かれたから、大事な会議が入ったって答えちゃったんだよね」

大事な会議。

新卒でぺーぺーの俺が?

それはちょっと苦しい言い訳じゃないの?俺は不安になって聞き返す。

「たぶん納得はしてくれたと思うけど、少し怒ってる感じだったから申し訳ないけどよろしくね?」

少し怒ってるくらいなら、なんとか巻き返せるかな。とりあえず会ったらすぐ謝罪だな。

俺は電話を切って商談先へ向かった。

静かに怒ってくる人って怖いよね

向かったのは閑静な住宅街にあるオシャレな飲食店。到着するとすぐに店主が迎えてくれた。

イメージしていた人と違って優しそうな雰囲気。少し不愛想な感じがあるけど、怒っているようには見えない。

店主に会って早々に俺は謝罪する。

「まぁ、とりあえずこちらへどうぞ」

俺が頭を下げるのを特に何とも思わなさそうな感じで席へ案内した。

え?どっち?これ、怒ってる?やっぱり怒ってる?それとも気にしてない?

店主の反応に戸惑いながらも俺は案内された席へ座る。

「ひとまず説明してもらっていいですかね」

店主がゆっくりと言った。怒っているのではなく単に時間を無駄にしたくない人なのかもしれない。

俺は言われるがままに資料を手渡して説明を始める。

途中で店主へ質問をしたり反応を求めたりしたけど、「まぁ、最後まで続けてください」と言ってコミュニケーションがとれない。普段だったらこの反応次第で話のポイントとか掘り下げとかを行うんだけど、何もできずに説明が終了した。

「以上ですが、いかがでしょうか」

俺は恐る恐る店主へ質問する。ここでようやく店主が口を開いた。

「まずね、そもそもなんでリスケしたんですか?」

ここでその質問?え?最初に謝罪したときはスルーだったのに。俺はアポイントと口裏を合わせて「大事な会議が入ってしまった」と答える。

「立川さん、かなりお若く見えますけど。大事な会議に出るくらい優秀な方ってことですか?」

店主の表情は読めない。相変わらず不愛想でどういう感情なのかわからない。愉快じゃないことだけは確かだ。

俺は勝手に新卒を取りまとめるポジションにいて、代表で出席しなければならなかったと急ごしらえのウソを言った。ウソの上塗りだ。

「代表するっていうことは同年代の中でも優秀ってことですか。いま説明聞いた感じだとそうは思えなかったですけどね」

グサっと刺さる一言が俺を貫く。確かに代表じゃないし優秀でもない。彼に話した説明も100点満点には程遠いものだ。

「そもそも、電話の人に一通り説明受けてたんですよ」

ここで新たな情報。え?アポイント担当の人はそんなこと書いてなかったと思うけど。

「それで各店舗に応じたプランを提案するって言うから呼んでみたら、全く同じ説明でがっかりしました」

情報共有不足だった。もっと電話で聞いておくんだった。俺は背中に嫌な汗をかき始めた。

「そもそもこのサービスの認知度が低い」

「うちの店の客層と御社のサービス利用者は合致していないと思う」

「売上が上がるみたいなことを自信満々に言ってますけど、絶対じゃないし保証もないですよね」

「サービスの利用料を考えると全然ペイできない」

などなど詳しいことは書けないが、上に書いたみたいにサービスのことを隅々まで試適してきた。

ずっと店主のターンだ。途中で言い返そうとも思うけど、アポイントと情報共有ができていなかったことが尾を引いていた。事前に説明していることと矛盾が起きたりしてさらにヒートアップしたらどうしよう。そう思うと曖昧な相槌しか打てなかった。

ひとしきり話し終えると、店主のターンは終わった。ヒロイン的なキャラクターがいたならば「もうやめて、立川豊のライフはもうゼロよ」状態だ。とっくの昔に俺は戦意を喪失していた。なんなら帰らせてほしい。

「論破したいだけの人」

結局のところ、はなっから店主に契約する気なんてさらさら無かった。

俺を呼びつけてサービスのことを論破したいがために呼んだんじゃなかろうか。

でもなんのために?

この時間は営業の俺にとってはもちろん店主にとっても無駄じゃないか。

そう思うけど、きっと店主は「論破する」ために呼んだのであり、それ以上でもそれ以下でもなかった気がする。

始めは俺も何でそんな店主の自己満足に付き合わなきゃいけないねん、とか思ってたけどよくよく考えると俺にはすごくメリットあったなって。

というのも商材に対しておかしい部分とか納得いかない部分を一通り指摘してくれるなんて人います?

店主が指摘した点というのはきっと他のお客さんでも引っかかる可能性がある。だからこそここで色んな指摘事項を言ってくれたのは後々かなり役に立った。

だからこそあの時の「論破したいだけの人」には感謝を伝えたい。

おわり。

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