ぬし釣り64が教えてくれたもの

いまは全く行けなくなってしまったので釣りについて語ろうと思います。

社会人になって「釣り」という趣味が増えた。

レンタカーを借りて釣り道具を一式詰め込んで彼女と朝方釣り場まで向かう。着いたらお昼くらいまで竿を出す。

昼になって暑くなってきたところで引き揚げて近くのスーパー銭湯へ足を延ばす。そこで湯船に浸かって潮臭さと寝不足の疲れを取り帰ったら釣った魚を料理する。なかなか贅沢な休日だと思う。

釣果があろうとなかろうと釣り場でのんびりと海を眺めて竿を出しているだけで割と楽しい。

楽しいというより何も考えないで済む。仕事のこととか、人間関係とか、グラブルのこととか生活していくうえで考えることは尽きない。でも海と向かい合うと不思議と何も考えずにぼーっとしていることができるのだ。

ぬし釣り64で覚えた釣り

釣りそのものを始めたのは社会人からだが、釣りとのそもそもの出会いは小学生の頃だ。

当時のゲーム機といえば誰もが知るNintendo64。

64を持っている友達の家に集まってはスマブラをしたりマリオカートをしたり楽しんでいたことだろう。

私も64を持っていたが残念ながら「スマブラしようぜ」と呼べる友達がいなかった。一人でスマブラをやってもたいして面白みはない。

そこで私が遊んでいたのがマリオ64みたいな一人プレイのゲームが主体となった。

そんな中ある時買ったのが『ぬし釣り64』だ。なぜ買ったかまでは思い出せないが、気づけば家にあって何となく始めたのだ。

『ぬし釣り64』はぬし釣り一家の誰かを選んで、その人にとっての『ぬし』を釣るというのがストーリーの主軸になる。

選べるのは全部で6人。兄の一郎、弟の次郎、妹の今日子、姉の真理子、母の敏子、父の秀男だ。当時の私は特に何も考えず兄の一郎を選んだ気がする。

画面が切り替わり、一家の会話から一郎の話が始まる。小学生の私は会話の内容もよく聞かずAボタンを連打した。

大変な愚行だ。

始めの会話は一郎の目的とかどんな魚を釣ればいいかを教えてくれる大事な場面だ。にもかかわらずすっ飛ばしてしまったせいで何をしたらいいのか全く分からない。

とりあえず釣りゲームなのだから魚を釣ればいいのだろうと家の近くにある海に向かい釣りコマンドを選択する。

青い魚影に向かって竿をだす。海が身近に無いところで育っていた私はどんな魚が釣れるかドキドキワクワクした。

しばらくすると魚影が投げたエサの近くまで来る。ウキの色が変わって沈んだように見える。

「釣れるのか?」そう思いながら待つと何も起きなかった。仕方がないから糸を戻してみるとエサが付いていなかった。逃げられたのだ。

このゲーム特に説明はない。

というか昔のゲームはたいていそういうものだった気がする。

今のゲームみたいに丁寧なチュートリアルがあるゲームなんて無かったと思う。説明書に書いてあったのかもしれないが小学生の私にその発想はない。

とにかくトライアンドエラーだ。エサつけてもう一度投げてみる。魚影がエサの近くまで来てウキの色が変わった。そこでボタンを押してみる。すると水中の画面に切り替わって魚がエサに食いついているではないか。

「やった!」と思うがこの後どうすればいいのだろうと考える。ボタンを押すと「グイグイ」という音ともに魚が嫌がってる素振りをする。

なんか申し訳ない。

ボタンを離すと魚が左側へ進んでいく。糸の方向的に逃げているのだろう。ボタンを押せば「グイグイ」と嫌がる。ボタンを押さないと逃げていく。八方ふさがりだ。嫌がってても心を鬼にしてボタンを押さなければならないのか。私は意を決してボタンを押し続ける。

「グイグイ。グイグイ。グイグイ。プツン」

「テンテケテンテケテンテケンテンテケテンテケテケテケテン♪」

逃げられた。

どことなくバカにされたようなBGMが流れ虚しさが溢れだす。

今はネットでプレイ動画を見れば釣り方がわかったかもしれないが当時はまだまだそんな時代じゃない。

かといって同じゲームをやっている友達もいない。そもそも友達がいない。私は何かに頼るのをやめてとりあえずもう一度水中の画面までいってみることにした。

「グイグイ。グイグイ。グイグイ。プツン」

「テンテケテンテケテンテケンテンテケテンテケテケテケテン♪」

BGM腹立つ。このBGM作った人すげぇよ。こんなに人を悔しい気持ちにさせるBGMが他にあるのか。

でも何度か繰り返しているうちに魚の向く方向によって嫌がらないことがわかってきた。

画面左側が魚が逃げていく方向なんだけど、たまに右側、つまりプレイヤーが竿を出している方向を向く。

左側を向いていて逃げている時にボタンを押しても「グイグイ」ってなって嫌がってしまう。

右側を向いたタイミングでボタンを押すと「ツツツツツ」と子気味良い糸を巻く音が聞こえる。正解はこれか。

こっちを向いたらボタンを押す。嫌がったらボタンを離す。右側に進めば進むほど背景の海もだんだんと浅くなっていく。ツツツツツ…。

・・・釣れた!やった!

初めて釣れたときの喜びは大きかった。連れた魚はスズキだ。小学生の私はこのゲームでスズキという魚を覚えた。

釣りの追体験

よくよく思い出してみると、初めて実際に釣りをした時もこのゲームの追体験だった気がする。

初めての釣りでワクワクしながら竿を出して、魚が釣れるのを待っても全然釣れない。しばらくウキを見ながら放置してるんだけど、特に変化なし。

仕方が無いから一度糸を戻してみるとびっくり。エサが無い。

何度か繰り替えしているうちに、糸をきちんと張っていれば魚が食いつく感覚がわかる気がしてきた。

魚が食いついてきたときにクイッとアワセると魚がかかって「グイグイ」と引っ張られる。

ただ、無理やり糸を巻いても逃げられてしまったり針を持ってかれたりすることもあった。

「グイグイ。グイグイ。グイグイ。プツン」

「テンテケテンテケテンテケンテンテケテンテケテケテケテン♪」

ゲームだったらこんなBGMが流れているだろう。ただ現実の釣りはそんなBGMが流れなくても悔しい。

魚が釣れた時に魚の様子を見ながら糸の出方と竿の向きを調節しながら糸を巻いていく。

魚影がだんだんと近づいてくる。ツツツツツ…。

・・・釣れた!やった!

これはまさに小学校の頃にやっていたゲームの追体験ではなかろうか。

釣りに関する基礎知識や感覚というのは『ぬし釣り64』が教えてくれていたのかもしれない。

改めてプレイする『ぬし釣り64』は最高だった

こんなご時世だから休日に釣りにも行けない。

そこで久しぶりに『ぬし釣り64』でもやろうかと、64のゲーム機とゲームソフトを引っ張りだす。

改めてプレイしてみると子どもの頃よりも楽しい。

ステージも豊富で河口、堤防などの海釣りから、山での渓流釣り、沼でのナマズ釣りなど色んな体験ができる。

さて、大物を釣ってやろう。現実で鍛えた釣りテクニックを見せてやる。

「グイグイ。グイグイ。グイグイ。プツン」

「テンテケテンテケテンテケンテンテケテンテケテケテケテン♪」

大人になってやった『ぬし釣り64』は子どもの頃より楽しかったけど、逃げられた時の悔しさも倍増していた。

釣り好きのみなさんもよろしければやってみてくださいな。

おわり。